Polinket Whitepaper v0.2
Blender スキルはどこまで圧縮できるか
2026-10-15 初版 / 2026-10-15 更新
プロシージャルなプレビズ生成で、人に求められる Blender の技能はどこまで小さくできるのか。注釈付きの静物を任意に呼び出せるライブラリを作り、その問いを測ろうとしている。
要旨
プレビズ(撮影や本制作の前に、カメラ位置・配置・尺を確かめるための仮の映像や画)では、小道具をそろえる作業に意外と手間がかかる。 机の上のマグカップ、公園のベンチ、酒場の樽。どれも本番では差し替える仮の物なのに、用意するには Blender でモデリングするか、素材サイトで探して縮尺と向きを直すしかない。
Polinket は、この「仮の静物」を検索ひとつで呼び出せるようにする試みだ。 仮説は単純で、実寸・接地・分類の注釈が付いた静物を任意に召喚できれば、プリプロダクションのうち小道具の工程はかなり軽くなる、というもの。 このページでは仮説を3つに分け、今わかっていること、まだ言えないこと、それをどう測るかを書く。結果が出るたびに版を重ねる。
問い:Blender スキルのどこが要らなくなるのか
プレビズの小道具に要る Blender の技能は、だいたい3つに分かれる。
- 作る:形をモデリングし、材質を付ける
- 整える:寸法を実物に合わせ、原点と接地をそろえ、向きを決める
- 置く:シーンに配置して、構図とスケール感を確かめる
このうち「作る」と「整える」を、人の手からどこまで外せるか。外せたとき、利用者に残る技能は「欲しい物を言葉で言う」と「置く」だけになるのか。これが問いだ。
3つの仮説
- H1 作る側の圧縮
- 静物のモデリング知識は、少数の技法と検査項目に圧縮できる。言語モデルはそれを使って、実寸の静物を大量に、一点ずつ別の設計で作れる。
- H2 使う側の圧縮
- 実寸・接地・向き・分類の注釈が付いていれば、利用者(人でも AI エージェントでも)は Blender を開かずに、必要な小物を探してシーンに置ける。
- H3 改善の圧縮
- 何が探され、何が見つからず、何が使えなかったかを戻せば、品質と網羅は人手をほとんど介さずに上がっていく。
今わかっていること(2026-10-15 時点)
H1:作る側
- 収録は 2,382 点、96 分野(椅子、調理家電、農場の動物、甲冑、祭りの飾りなど)。各分野は「椅子」ではなく「ロッキングチェア」「ディレクターズチェア」のように、実在する別々の物を挙げて作っている
- 1点につき Blender の Python スクリプトが1本ある。中央値 264 行、使うのは
bpy/bmesh/mathutils/math/osだけで、共有ライブラリも乱数も使わない。寸法は実物に合わせた固定値(1 単位 = 1 m)、底面は z=0 - スクリプトは言語モデルのサブエージェントが分野ごとに設計・実装し、Blender で全件を実行して確かめた
- 制作の過程で繰り返し使われた知識は、回転体(ロクロ)、経路に沿った断面の掃引、黄金角による配置など 12 の技法と、接地のずれ、回転軸の取り違え、左右対称部品の向きなど 6 項目の検査にまとまった
- 形の重複はない。頂点座標を 1 mm 単位に丸めたハッシュで、2,382 点すべてが互いに異なることを確かめている
一方で、品質はまだ測れていない。椅子・腰掛けの 25 点を試しに検査したところ、2 点が床に 6〜7 mm 沈み、2 点で部品が宙に浮いていた。全件の検査と自動修正はこれからで、それ自体が H3 の試金石になる。
H2:使う側
- すべて CC0 1.0(クレジット不要、商用可)で、タグ検索の API を OpenAPI 3.1 で公開している。AI エージェントは仕様を読むだけで検索から取得まで進められる
- 実寸と接地(glTF の座標で底面 y=0)はそろっているので、読み込んだ物はそのまま床に置ける
足りない注釈もはっきりしている。
- 正面の向きは +Z(glTF 2.0 の forward)にそろえる規約を決めたが、既存のモデルはレビューで順に直している途中だ。そろうまでは、椅子をテーブルに向けて並べるのに人が回す必要が残る
- 寸法は生成側の台帳にあるが、API ではまだ返していない
- 座面の高さ、天板の上面といった置き場所の注釈がない。マグカップを机の上に置くには、机の高さを知る必要がある
- 材質・時代・様式のタグが薄い。「中世の酒場」はまだ探しにくい
- 三角面数の中央値は 3,860 で、「ローポリ」と言い切るには重い物も混ざっている
H3:改善
この版から、検索されたタグとヒット件数、使えた・使えなかったという評価、見つからなかった物の報告を受け付けはじめた。 集めた信号から、言語モデル(GLM-5.3 Flash)がタグの修正、モデルの修正、新しいモデルの作成を、この順に優先して進める。公開の前には人が確認する。結果はまだない。
どう測るか
- AI の利用者で測る。利用者役の AI エージェント(Claude Opus 5.5)に、決まったシナリオ集で小物を集めさせる。 たとえば「キャンプ場のシーンに要る小物を 10 点」「中世の酒場」「オフィスの一角」。 測るのは、必要な物が見つかった割合、1 点を見つけるまでの検索回数、検索がゼロ件だった割合、使えないと評価された割合の 4 つ
- シナリオを学習用と評価用に分ける。改善ループには学習用の結果だけを渡し、効果は評価用で測る。同じシナリオで測ると、タグがそのシナリオに合わせ込まれて、効いたように見えてしまうからだ
- 人のプレビズで測る。同じ絵コンテ 1 枚に対して、Polinket を使う場合と使わない場合で、小道具がそろうまでの時間を比べたい。ここは協力者が要る
いずれも結果をこのページに載せ、版を上げる。仮説が外れた場合も載せる。
参加のお願い
この問いに賛同してくれる人、あるいは懐疑的な人の声がほしい。プレビズや 3D 制作の現場で「小道具のどこに一番時間を取られているか」を知っている人の意見は、とくに検証の設計を変えうる。
この問いについて、どう思いますか
使って評価を送る
小物を実際に使ってもらえるのが一番の助けになる。Web の検索画面からでも、API からでもいい。
AI エージェントに使わせる場合は、OpenAPI 仕様を渡して「使った物と見つからなかった物を POST /api/polinket/feedback で報告して」と頼むだけで評価が届く。
計測に協力する
絵コンテ 1 枚ぶんの小道具集めで時間を計らせてもらえる人を探している。X か GitHub で連絡がほしい。
版の履歴
- v0.2(2026-10-15):正面を +Z(glTF 2.0 の forward)に向ける規約を決め、既存モデルの修正を始めた。座標の表記を glTF 基準(底面 y=0)に改めた
- v0.1(2026-10-15):初版。仮説と検証方法を公開し、検索ログと評価の受け付けを始めた